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『青い惑星』に就いて: ジョゼフ・コーネルと私


『青い惑星』に就いて ー ジョゼフ・コーネルと私

山田勇男

何かひとつ不思議を示し

人みなのおどろくひまに

消えむと思ふ(石川啄木)

 これらの宇宙箱は、12年前の個展までに作られたボックス・アートが中心です。

セレクションは、倉庫化した東京の部屋で、今回もキューレーターして頂く、牧鼓さんにお願いした。慌ただしく渡航したので、今、改めてそれら宇宙箱と向きあって感じたのは、私にもよく解らない謎が散りばめられている気がしたことだった。

 丁度30年前の今頃(懐かしの7月!)、重いリックサックに、多量の8ミリフィルムとカメラを入れ、初めての海外だった。サンフランシスコからニューヨークまで、グレイハウンドバスでアメリカ横断の旅をした。その時、暇にまかせて入った美術館で見たのが、ジョゼフ・コーネルの大回顧展だった。

 薄暗いそのなかに入ると、すべて青色に統一された室内で、それぞれの作品に小さなスポットが当てられ、星座を巡る思いだった。その宇宙観は、この私のつたない言葉では語り得ぬ、それは奇蹟だった!嬉しくて嬉しくて、飛び跳ねたくなるくらい、どの作品もずっと抱きしめ、ずっと一生傍において眺めていたいと思った、美しい出会いだった。

 さて、3ヶ月の旅から戻り、さっそく大工道具を使い、板を切り、トンカチトントン釘を打ち、ガラス切りと格闘、ニスを塗り、そこに僕のフェヴァリットをコラージュし、ガラスの蓋をしたものの、コーネルのような美しいコンポジションが生まれることはなかった。それでもすこしはコーネルのようなものが作れたらと幾つも作った。

 その後、個展のたびに、木くずとほこりにまみれ、何度も失敗しながら続けていた。

 箱のなかの虚ろなマチエール、崩れ、はがれ落ち、欠けていく表層に愁いを与え、ガラス玉のひとつにいつまでも解けない謎をたくし、その孤独な惑星は、はてない宇宙にポツンとひとつ、さ迷い回転しているはずである。

 初めての宇宙箱。楕円形の飛行船を指さす少年を描いた、緑色のゴム版画の手前に、古い柱時計のネジ巻が置いてある。その時にはまだ、コーネルを知らなかった。

2016.7.25. 夜10:15 Yamavica


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