(写真:著者の影ーもうひとりの「私」、2017年9月、ルーマニア)
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実のところ、似ようとしたって思うように似ない。
まだ若い「私」に向かって、友人の兄が云った。
「いくら似せよう似せようとやっても、
けっきょくのところ、とどのつまり、最後は変ちょこりんのどっちでもないものになる。
それが個性といえば個性なのかわからないけれど、
まァ、そんな考えたって仕方ないから、好きだと思ったらとことん好きなようにやるしかない」と。
いまここで、「私」は遠いところにいるもうひとりの「私」に戻ってきたのか、
戻ってしまったのか解らないけれど、
渡独とランボオの再々度の逢瀬で、
いまさらやっと「夢の棲む場所」をもらった気がする。
もう「私」などどうでもいい。
出来るだけ、ただゆっくり静かに、此の世を眺めていること。
20歳過ぎたばかりの頃の夢を思い出した。
いつもの友人のアパートへ行く道だった。
丁度、寿し屋の暖簾の前で、一歩またいだ途端、
その間が割れて、股が裂けそうになり、目が覚めた。
「あッ、どちらにも行けないな」と思った。
★(続)