(写真:アムステルダム空港に到着後の筆者 2017年5月)
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老いた人たちは、独り静かに、夕暮れ刻のベンチに座り、
黙ったまま、沈んだ太陽のあとを眺めている。
或いは、眠れず、カーテンのない青白い夜明けの窓を見続けている、その情景。
すべての物象が寝静まったどこそこは、
亀に股がった浦島太郎の向かう未だ見ぬ海底の龍宮城の印象。
思い出すのも遠い、むかしのことばかり。
幼年期の記憶がおぼろげに浮かんで消える、
極端な無邪気さと馬鹿馬鹿しさ。
夢とは「苦しい忍耐を要する実践と映る」ことか。
懐かしくって、切なくって、哀しいそれらを、
どうずることも出来ないで眺めているのだ。
しかし、実感の伴わない名目などいらない。
恥ずかしさを感じなくてはいけない。
その行為の、わずか瞬時の自明こそが、いつしか、
一本の緑色の光線となることを祈るばかり。
★(続)